石原英和

石原英和工房（いしはらひでかずこうぼう）

紙漉きに、卒業はない。難しく、奥深く、愛おしい世界。

白く柔らかく、繊維が縦横に整然と絡み合った美しい紙。手に取り持ち上げると、ふわりと空中に消えてしまいそうなほどに薄くて軽やかで、その儚く優しい風合いに心を奪われる。薄い紙は、漉くのも干すのも熟練の技が必要。薄葉紙の名手と言われた父の元で厳しく手漉きを学び、妻の貴美子氏と共に薄美濃紙や典具帖紙、伊勢型紙などの薄い紙を得意としてきた。「薄い紙を漉かせたら石原さんの右に出るものはいない」と、周囲は彼の技術を賞賛する。「紙漉きに卒業はない、最高の紙が漉けたと思った瞬間に、職人としての成長は止まる」と断言する。この道一筋年の石原さんでさえ、少しのことですぐに機嫌を損ねてしまう紙料*と常に真剣に対峙しながら、求められている紙に少しでも近づけるようにと、試行錯誤を繰り返しているというのだ。

漉いた紙を、陽の光に透かしながら眺める。この紙の薄さは儚さではなく、強さなんだと感じさせてくれる。

*=紙料(しりょう) 漉き舟の中の原料や「ネリ(植物性粘質液)」などを混ぜた液体。

プロフィール

岐阜県美濃市生まれ。16歳で紙漉き業に就き、父・石原善松氏に師事。「美濃手すき和紙協同組合」理事長、「美濃和紙伝統工芸士会」会長、「岐阜県工芸士会」会長、「全国手すき和紙連合会」会長を歴任。1993年「中部通商産業局長賞」受賞、2006年「経済産業大臣功労賞」受賞、2014年「瑞宝単光章(伝統工芸業務功労)」受章。伝統工芸士。「本美濃紙保存会」会員。